文・イラスト/つじむらあゆこ


その2 エンリケ家

とにかく外国に住むのは初めて、それもホームステイだから、どんな家庭なのかすごく心配していた。アパートなのか一軒家なのか、どんな人たちが住んでいるのか、それともおばあちゃんの一人暮らしか、貧しいのか、そうでもないのか、気になることは数えきれないくらいあった。

ホームステイ先には「4月◯日にうかがいます。」と手紙を出してあったのだが、その前日、私はすでにマラガのホテルでヒマをもてあましていて、そこがどんな家なのかちょっと覗いてみようと思い出かけていった。語学学校から教えてもらっていた住所をたよりにその家を探した。そのあたりにはマンションが何棟か建っていた。その家もマンションの一室なのだと思い、建物のまわりをぐるぐる回っていたのだが、その番地がみつからない。

4月の終わりとはいえ、日ざしは強くじりじりする。歩き疲れてきてもう帰ろうかと思っていたら、マンションの横の一軒家の前に白い軽自動車が止まった。そして太ったおじさんが降りてきてこっちを見ている。
「アユコ?」
「はい!?」
マンションの方ばかり気にしていたので、その家には気づかなかった。その上、なんで彼がわたしの名前を知ってるのか一瞬わからなかったが、すぐにそこが、しばらく住むことになる家なんだと気づいた。
「よく来たね!さあ入って。自分の家だと思ってゆっくりしていいからね。」
なんだか、とってもきさくなおじさんだ。これがスペイン人ってものなんだろうか?
「ありがとう、でもきょうはホテルに泊まってるから・・・」
「ホテルなんてお金がもったいないよ。今から荷物を取ってきて、うちに泊まればいいよ。」
それは、ステイ先のお父さんのエンリケだった。しかし、すでにホテルをチェックアウトできる時間じゃなかった。予定通り明日また来るからと言って、その日はホテルにもどった。

突然ステイ先の人が現れたので、わたしはかなり緊張したのだけど、エンリケが、大歓迎って感じで明るく迎えてくれたので、ほっと安心したのだった。その時彼は、気のいいおじさんに見えたので、この家でよかったなぁと喜んだ。しかし喜んでいられたのはほんのつかの間だった、、、。

エンリケ家は、お父さんのエンリケとお母さんのリタ。彼女はドイツ人。エンリケがドイツ語の勉強のためにドイツに留学していたときに、猛アタックして結婚したらしい。あとは、仕事のため普段は近くの町に住んでいる娘さんと、息子のエンリケ(お父さんと同じ名前)がいた。息子のエンリケはキケという愛称で呼ばれていて、電気屋に勤めている。エンリケはもう仕事はしてなくて、学生を滞在させることで収入を得ていた。
私の他にホームステイしていたのは、スロバキアの男の子、マロシュ。ドイツ人の夫婦、マルティーナとトーマスだった。彼らは、バカンスを兼ねて2週間だけ語学学校に通いつつ、太陽を浴びにやってきていた。

エンリケは料理するのは好きらしく、彼の料理はどれもおいしかった。近くの市場に買い出しに行ってマメに料理をしていた。ただ時々、食べられないくらい塩っぱい味付けの時があって、それには参った。エンリケいわく、塩味が薄い=まずい、ということらしい。
家はけっこう広くて新しかった。バスルームも3つあり、シャワーのお湯も十分にでるし、芝生の庭も広く、住むにはとっても快適な家だった。ただ、わたしの部屋にはどうもノミがいたようで、ベッドで眠るたびにかゆいぷつぷつが増えてしまった。

エンリケはサッカーと闘牛が大好き。テレビでサッカーを見ていると、時々でっかい声で「ゴール!!」と叫んでいたりする。昼過ぎには毎日シエスタ(昼寝)をとって、ゴーゴーといびきをかいて寝ている。最初の2、3日は、彼のことをいいおじさんだと思っていた。でも日々過ごすうちにだんだん、あれ?って思うことが増えていって、結局1ヶ月で彼の家から出ることになったのだ。

実は彼は、闘牛とサッカーの他にも女の子が大好きだったのだ。(しかし、わたしはもう女の子という年でもなかったのだが・・・。)なので、一緒に市場について行ったりすると、ものすごくうきうきして喜んでいた。そして、いっしょに買い物に行こうだの、フラメンコに行こうだの、サッカー見に行こうだの、毎日のように誘われた。それだけならまだしも、すぐに手をつないできたり腰に手を回してきたり・・・。つまり、セクハラおじさんだったのだ!でも、もしかしたらスペインではこれが普通なのかも????と、いろいろ考えたりもしたが、最後に語学学校の先生に相談してみた。そしたら、過去の彼のエスカレートした行動の数々を聞かされて恐くなってしまった。ウソかホントか、ある学生はエンリケが夜部屋に入ってきた時のために、毎日ナイフを持って寝ていた、という話まで残っていた。

そして1ヶ月が過ぎる頃エンリケに、今月で家を替わる、と勇気を出して言った。すると
「来月からの収入(ホームステイ代)が減る!!食事を美味しいと言って食べていたのはウソだったのか!!」と、エンリケの怒りが爆発してたいへんだったが、なんとかエンリケ家を脱出することができたのだった。
※エンリヶ一家の写真はまったく撮らなかったため、絵も描けませんでした。

つじむらあゆこ
1964年11月22日生まれ イラストレーター
子どもや女性の絵を、雑誌、書籍を中心に、かわいい感じやワクワク感を大切に描いています。
ちなみに、ただいまの目標は結婚です。
http://members.jcom.home.ne.jp/ajuaju/

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